設立の理念
京都大学放射線生物研究センターは放射線の生物影響に及ぼす基礎的研究を行うと共に、研究交流と協力の推進を目的として、昭和51年5月に学術会議の勧告に基づき京都大学に附置された全国共同利用施設であり、平成22年には共同利用共同研究拠点に認定されました。
我が国は広島・長崎の唯一の原爆被爆国として、またビキニ環礁での水爆被爆や東海村JCO、福島第一原発の事故などにより放射線生物影響への国民的関心が高く、その結果、多くの有能な放射線生物研究者を輩出し、その研究成果は国際的にも高い評価を得てきました。また、高齢化社会を迎えた本国において、がんの放射線治療は高齢者に負荷の少ない治療方法としてますます重要性が認識されています。放射線生物学は、放射線リスク評価の学術的基盤として、また放射線治療の分子生物学的基盤として現代の社会生活と密接に関わる研究領域です。我が国で発展したとも言えるこの領域の研究活動を推進し、今後さらに高まる社会的ニーズに応えるべく、全国に散在する研究者およびコミュニティとの共同研究推進および共同利用の提供が放射線生物研究センターに期待されている役割です。各種放射線線源の利用および放射線生物効果の解析装置の提供、研究資材や実験技術供与などの共同利用、さらには先端研究や研究技術開発について当施設研究者との共同研究を推進します。また、この領域の研究情報交換ならびに研究者交流のために国際シンポジウムなどの研究集会を定期的に開催しています。
教育目標
生命はその誕生以来、放射線や種々の環境ストレスに曝されてきました。これらのストレスに巧みに応答することで、生命は自己複製のみならず、進化をも遂げてきました。染色体ゲノム損傷の実体とそれに対する細胞応答を研究することは、まさしく生命の維持と進化の分子メカニズムを追求することに他なりません。さらに放射線生物学に寄せられる社会のニーズは多様です。研究成果は発がんメカニズムの解明と放射線治療の効率化に応用されます。また、種々の線種や線量が及ぼす生物影響の研究はリスク評価の分子基盤を与える上で極めて重要なものです。
このように多様な興味とニーズを抱える放射線生物学は学際的学問の典型です。生物学のみならず医学、物理学、化学など広範な知識と技術が要求されます。放射線生物学研究センターは平成31年度(2019年度)4月に京都大学大学院生命科学研究科と統合し、大きな節目を迎えましたが、引き続きライフサイエンス分野で次世代のリーダーとなり得る研究者の育成に努めます。また、従来の京都大学大学院医学研究科や、人間・環境学研究科の大学院生を対象にした、研究・教育活動も継続します。研究室における実験を主軸とした研究に留まらず、広い領域に関わる先端的知識・技術の吸収のため、各分野の先端研究者によるセミナー開催、論文講読や集中講義型合宿の実施、さらに国内外の関連学会への参加を支援します。
また、いちはやく放射線生物学やその基盤にあるゲノム生物学に”触れる”機会を提供する取り組みとして、京都大学全学部生向けの講義「ILASセミナー」を開講しています。さらに、京都大学大学院工学研究科、医学研究科、人間・環境学研究科の大学院生に向けた先端性と専門性の高い講義を開講しています。