京都大学放射線生物研究センター

一般の方への研究成果紹介ページ

放生研の研究成果を一般の方にわかりやすく紹介する研究成果アーカイブです。

2016年

Induction of Excess Centrosomes in Neural Progenitor Cells during the Development of Radiation-Induced Microcephaly. Shimada M, Matsuzaki F, Kato A, Kobayashi J, Matsumoto T, Komatsu K. PLoS One. 2016 Jul 1;11(7):e0158236. doi: 10.1371/journal.pone.0158236. eCollection 2016.

原爆に被ばくした胎児に発症した原爆小頭症は、ヒトで報告されている唯一の放射線による先天異常である。本論文は原爆小頭症の発症機構の解明を目的として、放射線1Gyおよび2Gyをマウス胎仔に照射した。照射を受けた発生段階の大脳組織の神経前駆細胞に多数のアポトーシスが見られた。また、アポトーシスを逃れた神経前駆細胞に正常な中心体数の2個を超える、余分な中心体の発生が多数見られた。これらマウスの新生仔に小頭症が高頻度に発生したことから、胎仔期の細胞死なら
びに分裂障害による神経前駆細胞の減少が放射線小頭症の原因であることが示された。

Coordinated Regulation of TIP60 and Poly(ADP-Ribose) Polymerase 1 in Damaged-Chromatin Dynamics. Ikura M, Furuya K, Fukuto A, Matsuda R, Adachi J, Matsuda T, Kakizuka A, Ikura T.
Mol Cell Biol. 2016 May 2;36(10):1595-607. doi: 10.1128/MCB.01085-15.

一般的に分子を標的とした抗がん剤は、その効果に個人差があることが問題でした。今回、我々は、抗がん剤Olaparib (ポリADPリボシル化酵素の阻害剤) がTIP60ヒストンアセチル化酵素によるクロマチン蛋白質H2AXのアセチル化を介したDNA修復反応を阻害することを明らかにしました。H2AXのアセチル化をターゲットにしたクロマチン創薬により、Olaparibの効果を高める薬剤の開発が可能になり、効能の個人差の問題が是正されることが期待できます。

FANCI-FANCD2 stabilizes the RAD51-DNA complex by binding RAD51 and protects the 5′-DNA end. Sato K, Shimomuki M, Katsuki Y, Takahashi D, Kobayashi W, Ishiai M, Miyoshi H, Takata M, Kurumizaka H. Nucleic Acids Res. 2016 Sep 30. pii: gkw876.PMID: 27694619

早稲田大学、胡桃坂研究室、佐藤浩一さんの研究成果ですが、放生研の共同利用研究であり、髙田研究室が共同研究をさせていただきました。小児遺伝病ファンコニ貧血の原因蛋白質がどのようにDNA損傷修復に関わるかは、疾患理解、今後の治療開発の上でも重要な問題です。この論文では、ファンコニ貧血を考える上で特に重要な蛋白質であるFANCD2が、これもまた重要なDNA修復タンパク質であるRAD51に結合してその活性を制御することを見事に示しています。

 

The phenotype and clinical course of Japanese Fanconi Anaemia infants is influenced by patient, but not maternal ALDH2 genotype. Yabe M, Yabe H, Morimoto T, Fukumura A, Ohtsubo K, Koike T, Yoshida K, Ogawa S, Ito E, Okuno Y, Muramatsu H, Kojima S, Matsuo K, Hira A, Takata M. Br J Haematol. 2016 Jul 5. doi: 10.1111/bjh.14243.

東海大学附属病院の矢部みはる、矢部普正博士らとの共同研究で、重篤な小児血液疾患であるファンコニ貧血の患者では、体質的に(これはすならち遺伝的にということですが)アルデヒド分解酵素の活性が低い場合、非常に重症化することをみつけ、2年まえ報告しました。これ自体病態の本質を示唆する重要な知見と考えています。しかし、母親マウスのアルデヒド分解活性がマウス胎仔の症状に影響するとケンブリッジ大学から報告されていたので、我々は、日本人患者のお母さんたちのアルデヒド分解酵素の遺伝子型を調べ、人間では全くそのようなことはないことを今回報告したものです。マウスとヒトはやはりいろいろ違うのですね。

2015年

Acetylation of histone H2AX at Lys 5 by the TIP60 histone acetyltransferase complex is essential for the dynamic binding of NBS1 to damaged chromatin. 

Ikura, M., Furuya, K., Matsuda, S., Matsuda, R., Shima, H., Adachi, J., Matsuda, T., Shiraki, T. andIkura, T (2015) Mol Cell Biol.2015 Dec 15;35(24):4147-57.

DNA損傷部位には、DNA修復蛋白質のみならず、DNA損傷応答シグナルを活性化させる因子も集積する。いわばDNA損傷部位は、DNA損傷応答シグナルの発信源とも言える。しかし、これまでDNA損傷応答シグナルの活性化因子が、DNA損傷部位に限局される仕組みは明らかでなかった。今回、我々は、TIP60ヒストンアセチル化酵素によってアセチル化されたH2AXが、クロマチンから放出され、DNA損傷シグナルの活性化因子であるNBS1と結合して損傷領域へ取り込まれることを明らかにした。このことがDNA損傷部位に集積するNBS1の限局化を促し、非損傷領域への拡散を防ぐことに重要であるということを見出した。DNA損傷応答シグナルの損傷領域での限局化におけるアセチル化を介したH2AXの動的な変化の重要性を提示した。

Absolute quantification of acetylation and phosphorylation of the histone variant H2AX upon ionizing radiation reveals distinct cellular responses in two cancer cell lines.

Matsuda, S., Furuya, K., Ikura, M., Matsuda, T. and Ikura, T (2015). Radiat Environ Biophys. 54; 403-411

我々は、異なる2つのがん細胞を用いて、放射線障害におけるH2AXのアセチル化とリン酸化の起こる度合いを定量プロテオミクス解析で比較した。同一線量の放射線に対して、これら2つのがん細胞のH2AXのアセチル化とリン酸化は、互いに異なった挙動を示すことが明らかになった。細胞ごとにDNA損傷応答シグナルの活性化の仕組みが多様であることが示唆された。

Mutations in the gene encoding the E2 conjugating enzyme UBE2T cause Fanconi anemia.

Hira A, Yoshida K, Sato K, Okuno Y, Shiraishi Y, Chiba K, Tanaka H, Miyano S, Shimamoto A, Tahara H, Ito E, Kojima S, Kurumizaka H, Ogawa S, Takata M, Yabe H, Yabe M. Am J Hum Genet. 2015 Jun 4;96(6):1001-7.

東海大矢部みはる博士、京大小川誠司博士、名大小島勢二博士らとの共同研究で、日本人のファンコニ貧血患者さんのゲノムを解析し、新たな原因遺伝子UBE2Tの変異を見出しました。これはFANCTという別名で呼ばれることになりました。うれしいことに、1名の患者さんは、かつて佐々木正夫名誉教授が解析し、比較的コモンなタイプの変異ではないことを報告されていた方でした。佐々木先生が収集されたサンプルは、放生研データベースにある医薬基盤研細胞バンクに保存されており、それを使って実験を行い、証明にいたりました。日本ないしアジアから始めてのファンコニ貧血患者の同定です。

2014年

FANCD2 binds CtIP and regulates DNA-end resection during DNA interstrand crosslink repair.

Unno J, Itaya A, Taoka M, Sato K, Tomida J, Sakai W, Sugasawa K, Ishiai M, Ikura T, Isobe T, Kurumizaka H, Takata M. Cell Rep. 2014 May 22;7(4):1039-47.

ファンコニ貧血経路の重要因子FANCD2はヌクレアーゼ群の損傷部位へのリクルートメントとクロスリンク損傷の切断に機能していることが近年注目されています。我々は、FANCD2がさらにCtIPヌクレアーゼを結合し、DNA切断後のプロセシングに機能することを見出しました。放射線後の修復にも同様のメカニズムが働くことが考えられます。

Histone chaperone FACT regulates homologous recombination by chromatin remodeling through interaction with RNF20.

Oliveira DV, Kato A, Nakamura K, Ikura T, Okada M, Kobayashi J, Yanagihara H, Saito Y, Tauchi H, Komatsu K. J Cell Sci. 2014 Feb 15;127(Pt 4):763-72.

放射線障害の重篤度を左右する細胞内DNA修復経路がヒストンシャペロンFACTにより開始することを見いだしました。FACTはDNA複製や転写にも機能していることから、増殖細胞から構成されるヒト組織と非増殖細胞組織での放射線感受性の違いなどの原因を明らかにし、今後の放射線リスクの正確な評価につながると期待される。

2013年

Synchronous activation of cell division by light or temperature stimuli in the dimorphic yeast Schizosaccharomyces japonicus.

Okamoto S, Furuya K, Nozaki S, Aoki K, Niki H. Eukaryot Cell. 2013 Sep;12(9):1235-43.

二形性酵母においては放射線等のDNA損傷ストレスにより菌糸へと分化する特異な応答が見られる。本研究結果において、菌糸生育において可視光が刺激となり細胞分裂期が同調して誘導される事を示した。光刺激が細胞周期を制御する既日リズムの原型とおもわれ、その放射線応答との関与が示唆される。

Variant ALDH2 is associated with accelerated progression of bone marrow failure in Japanese Fanconi anemia patients

Asuka Hira, Hiromasa Yabe, Kenichi Yoshida, Yusuke Okuno, Yuichi Shiraishi, Kenichi Chiba, Hiroko Tanaka, Satoru Miyano, Jun Nakamura, Seiji Kojima, Seishi Ogawa, Keitaro Matsuo, Minoru Takata and Miharu Yabe. Blood 122, 3206-3209, 2013,

血液系の難病ファンコニ貧血の症状が、体内のアルデヒドを分解する酵素ALDH2の遺伝子型により大きく影響を受けることを見出しました。この結果は、ファンコニ貧血の症状がアルデヒドによるDNA損傷によって引き起こされていること、したがって、ALDH2酵素の活性化剤を使えば症状を軽減できる可能性があることを示しています。今後の治療法開発を加速するかもしれません。

A novel interplay between the Fanconi anemia core complex and ATR-ATRIP kinase during DNA cross-link repair.

Tomida J, Itaya A, Shigechi T, Unno J, Uchida E, Ikura M, Masuda Y, Matsuda S, Adachi J, Kobayashi M, Meetei AR, Maehara Y, Yamamoto K, Kamiya K, Matsuura A, Matsuda T, Ikura T, Ishiai M, Takata M.,Nucleic Acids Res. 2013 Aug;41(14):6930-41.,

DNAが損傷したとき細胞はDNA合成を止めたり、次の細胞周期のステップに進行するのを止めたりします。このときに重要な酵素ATRの活性化に、小児遺伝病のファンコニ貧血の原因となっている遺伝子が必要であることを示しました。したがって、ファンコニ貧血では細胞周期の進行にも問題があることがわかりました。がんの発生やがんの化学療法の効果の理解に意義のある研究です。

2012年

The ATR-ATRIP kinase complex is responsible for triggering activation of the FA pathway.

Tomoko Shigechi, Junya Tomida, Koichi Sato, Masahiko Kobayashi, John K. Eykelenboom, Fabio Pessina, Yanbin Zhang, Emi Uchida, Masamichi Ishiai, Noel F. Lowndes, Kenichi Yamamoto, Hitoshi Kurumizaka, Yoshihiko Maehara, & Minoru Takata, Cancer Research (in press)

DNA損傷応答に欠損のあるファンコニ貧血という遺伝性疾患の原因遺伝子がATRキナーゼによる制御下にあることを明らかにしました。骨髄幹細胞維持と、発がん、白血病の病態解明に意義ある研究です。

Centromere-tethered Mph1 is a sufficient marker for recruitment of Bub1, but not Mad1.

Daisuke Ito, Yu Saito and Tomohiro Matsumoto, Proc Natl Acad Sci U S A. 109:209-14 (2012),

細胞分裂のたびに、染色体は過不足なく2つの娘細胞に分配される必要があります。染色体数を一定に保つ保証機構(スピンドルチェックポイント)に機能するタンパク質Mph1が、同様な機能をもつ別のタンパク質Bub1を染色体の動原体に誘導することを発見しました。

A mutation of the fission yeast EB1 overcomes negative regulation by phosphorylation and stabilizes microtubules.

Iimori M, Ozaki K, Chikashige Y, Habu T, Hiraoka Y, Maki T, Hayashi I, Obuse C, and Matsumoto T. Exp Cell Res. 318(3):262-75 (2012)

微小管は有糸分裂期では紡錘体あるいは星状体の主要な構成成分として姉妹染色分体の分配に重要な機能を果たします。この微小管の先端で機能する分裂酵母 Mal3 (ヒトEB1の相同体)の微小管安定化因子としての機能はリン酸化によって制御されていることを明らかにしました。また微小管結合部位に変異をもつMal3-89Rタンパク質は、リン酸化による制御から逸脱し、微小管の先端のみならず全長に結合し、微小管を高度に安定化させることを示しました。

2011年

NBS1 recruits RAD18 via a RAD6-like domain and regulates Pol η-dependent translesion DNA synthesis.

Yanagihara H, Kobayashi J, Tateishi S, Kato A, Matsuura S, Tauchi H, Yamada K, Takezawa J, Sugasawa K, Masutani C, Hanaoka F, Weemaes CM, Mori T, Zou L, and Komatsu K, Mol Cell. 43(5):788-97 (2011)

DNA損傷が生じると、修復、細胞周期チェックポイント、及びDNA上に損傷を残したままDNA複製を続行する損傷乗り越えDNA合成 (Translesion DNA Synthesis: TLS) 機構が適切に働くことが重要です。これまで修復に機能すると考えられていたタンパク質NBS1が、実はTLSの開始にも重要な役割を担うこと、また、この役割は特に紫外線によってDNA損傷が生じた場合に重要であることを発見しました。

Construction of Diploid Zygotes by Interallelic Complementation of ade6 in Schizosaccharomyces japonicus.?

Kanji Furuya, Hironori Niki, Yeast, 2011 Oct;28(10):747-54ジャポニカス酵母は分化する酵母であり、とりわけ放射線に曝された細胞に見られる分化応答の解析の格好のモデルとなります。ジャポニカス酵母は通常遺伝子が一コピーしかない半数体で増殖しますが、本論文では強制的に二倍体作成するためのマーカーセットを構築しました。二コピーある遺伝子の一方を容易に破壊が可能であり、生育に必須な遺伝子の解析が可能となりました。

Breakage of the nuclear envelope by an extending mitotic nucleus occurs during anaphase in Schizosaccharomyces japonicus.

Keita Aoki, Hanako Hayashi, Kanji Furuya, Mamiko Sato, Tomoko Takagi, Masako Osumi, Akatsuki Kimura and Hironori Niki, Genes to Cells, July 6 2011.

真核生物の染色体DNAは核膜に覆われています。高等真核生物では染色体DNAを娘細胞へと分配する際に細胞分裂の際に核膜がバラバラに崩壊します。一方、酵母などの単細胞生物では核膜は崩壊しないまま、染色体分配が行われます。驚いた事にジャポニカス酵母では核膜が分裂期の途中までは核膜が崩壊しませんが最後に轢きちぎられるように崩壊する、ちょうど中間の挙動をする珍しい例である事がわかりました。

Regulation of homologous recombination by RNF20-dependent H2B ubiquitination.

Nakamura K, Kato A, Kobayashi J, Yanagihara H, Sakamoto S, Oliveira D, Shimada S, Tauchi H, Suzuki H, Tashiro S, Zou L, and Komatsu K. Mol Cell, 41:515-528 (2011)

DNA修復の中心的役割を担っている相同組換えは、細菌のような原核生物から真核生物のヒトまで良く保存されている生命維持機構です。しかし、原核生物と異なり、真核生物ではDNAがクロマチン構造にコンパクトに収納されています。ヒト細胞でのクロマチン構造を緩める機構は長い間不明でしたが、放射線損傷部にRNF20が動員されてヒストンH2Bをユビキチン化、続いてH3のメチル化とクロマチン・リモデリング因子SNF2hが損傷部位に集積して相同組換えが開始することが明らかとなりました。

Kitao H, Nanda I, Sugino RP, Kinomura A, Yamazoe M, Arakawa H, Schmid M, Innan H, Hiom K, Takata M.

FancJ/Brip1 helicase protects against genomic losses and gains in vertebrate cells. Genes to Cells 2011 Jun;16(6):714-27.

Brip1と呼ばれるDNA代謝酵素を欠損した細胞では染色体ゲノムに穴があいたり、部分的にふえたりすることを見つけました。Brip1欠損は乳がんになりやすい体質と関連していて、発がんのメカニズム理解に役立つ研究です。

Comparative Functional Genomics of the Fission Yeasts.

Nicholas Rhind,…, Kanji Furuya(12番目), … and Chad Nusbaum(計47名)Science, Vol. 332, 930-936, 2011.

ジャポニカス酵母は放射線を浴びた際に分化する、珍しい細胞応答を起こします。ジャポニカス酵母のゲノム配列を本研究では解読しました。代謝経路などに近縁種との相違が見られ、特異な細胞応答の理解が可能となるかもしれません。

Genistein, isoflavonoids in soybeans, prevents the formation of excess radiation-induced centrosomes via p21 up-regulation.

Shimada M, Kato A, Habu T, Komatsu K. Mutat Res. 716:27-32 (2011)

ヒト体細胞分裂では、染色体が二個の中心体を支点として均等に分けられ、正確に23対が娘細胞で維持されます。二個以上の中心体は異常な染色体数を招き、発がんならびにがんの悪性化につながると考えられています。中心体の過剰複製はCDK2/サイクリン-A/E複合体の活性化に原因しますが、豆類に含まれるゲニステインがCDK2/サイクリン-A/E阻害剤であるp21タンパクの細胞内濃度を増加させて、放射線による中心体過剰複製の防護効果を示すことが明らかとなりました。

Methionine Adenosyltransferase II Serves As a Transcriptional Corepressor of Maf Oncoprotein.

Katoh, Y., Ikura, T., Hoshikawa,Y., Tashiro, S., Ohta, M., Kera, Y., Noda, T., Igarashi, K. Mol Cell 41, 554-566 (2011)

転写抑制因子Bach1が、その転写抑制効果を発揮するためには、メチル基転移酵素SAMを合成する酵素MATIIがクロマチン上に局在することが必要であることが示されました。転写機構と生体内の代謝カスケードが転写制御領域のクロマチン上でクロストークすることが明らかにされた論文で、DNA修復を含めた他のDNA代謝においても同様なクロストークが予想されます。

2010年

Bisbenzamidine derivative, pentamidine represses DNA damage response through inhibition of histone H2A acetylation.

Kobayashi J, Kato A, Ota Y, Ohba R, Komatsu K. Mol Cancer 9: 34 (2010)

放射線は細胞内分子を電離して化学結合を切断しますが、その中でも二重鎖切断は最も重篤な放射線DNA損傷です。このため、NBS1/MRE11複合体とヒストンH2AXの化学修飾を中心とした応答機構が細胞を放射線損傷から防御します。この応答機構の破壊は放射線感受性の増感によるがんの放射線治療の治癒率の向上につながると期待されます。ペンタミジン化合物がH2AXのアセチル化を介して応答機構を阻害、その結果として放射線増感作用を示すことが明らかになりました。

2009年

Inactivation of the Nijmegen breakage syndrome gene NBS1 leads to excess centrosome duplication via the ATR/BRCA1 pathway.

Shimada M, Sagae R, Kobayashi J, Habu T, Komatsu K. Cancer Res. 69: 1768-1775 (2009)

中心体は細胞分裂時に染色体を均等に分けるのに必須の細胞小器官です。中心体の主要構成成分γチューブリンは複製に際してユビキチン化を受け、この異常は中心体の過剰複製を介して染色体異数性をもたらします。中心体にはDNAが存在しませんが、DNA修復タンパクNBS1が中心体に局在することが示されました。NBS1はATR/BRCA1によるチューブリンのユビキチン化を制御しており、その欠損が中心体の過剰複製につながることが明らかとなりました。

Distinctive Responses to Nitrogen Starvation in the Dominant Active Mutants of the Fission Yeast Rheb GTPase.

Tomoka Murai, Yukiko Nakase, Keiko Fukuda, Yuji Chikashige, Chihiro Tsutsumi, Yasushi Hiraoka and Tomohiro Matsumoto. Genetics 183(2), 517-527 (2009)

Rheb GTPaseは細胞成長の誘導と栄養飢餓応答の抑制を促すシグナルを細胞内に伝達する分子スイッチとして機能します。これまでRheb GTPaseが担うシグナルを受け取る因子として、唯一Tor2 (mTORの分裂酵母ホモログ)が知られていました。我々が作成した優性変異型Rheb GTPaseの一つ表現型を解析することにより、Rheb GTPaseはTor2以外にもシグナルを伝えている可能性を見出しました。

2008年

Involvement of Fission Yeast Clr6-HDAC in Regulation of the Checkpoint Kinase Cds1.

Kunoh, T., Habu, T. and Matsumoto, T. Nucleic Acids Res. 36(10), 3311-3319 (2008)

染色体DNAの複製は生命の自己複製のために必須の過程です。この過程に問題が発生すると、細胞は問題が解決するまで自己複製を停止します。問題を解決する過程で、染色体を構成するタンパク質(ヒストンH4)のアセチル化がClr6酵素の作用により減少すること、さらに、この酵素が欠損すると、たとえ複製過程の問題が解決しても、自己複製が再開しないことを見いだしました。

Radiation induction of delayed recombination in Schizosaccharomyces pombe.

Jun Takeda, Norio Uematsu, Satomi Shiraishi, Megumi Toyoshima, Tomohiro Matsumoto, Ohtsura Niwa. DNA Repair 7(8), 1250-1261 (2008)

放射線による染色体DNAの損傷は組換え反応によって修復されます。X線照射により染色体に損傷を誘導すると、損傷が修復された後でさえ、8世代以上にわたり、組換え反応の活性が高いことを見いだしました。細胞には、”以前に被曝した”ことを記憶する能力が備わっているようです。

FANCI phosphorylation functions as a molecular switch to turn on the Fanconi anemia pathway.

Ishiai M, Kitao H, Smogorzewska A, Tomida J, Kinomura A, Uchida E, Saberi A, Kinoshita E, Kinoshita-Kikuta E, Koike T, Tashiro S, Elledge SJ, & Takata M. Nat Struct Mol Biol. 2008 Nov;15(11):1138-46.

血液細胞のもとになる骨髄幹細胞では、DNA損傷を修復するシステムが重要で、遺伝的にこれに問題があると、貧血やがんになる遺伝病ファンコニ貧血が発症します。このDNA修復システムが発動するために重要な分子スイッチをみつけました。ファンコニ貧血患者でこのスイッチをオンにできれば治療法になるかもしれませんし、オンオフすることで正常人のがん治療に応用できるかもしれません。

2007年

DNA damage-dependent acetylation and ubiquitination of H2AX enhances chromatin dynamics.

Ikura T., Tashiro, S., Kakino, A., Shima, H., Jacob, N., Amunugama, R., Yoder, K., Izumi, S., Kuraoka, I., Tanaka, K., Kimura, H., Ikura, M., Nishikubo, S., Ito, T., Muto, A., Miyagawa, K., Takeda, S., Fishel, R., Igarashi, K., Kamiya, K.Mol Cell Biol. 27, 7028-7040, 2007

真核生物のDNAは、ヒストン蛋白質と複合体を形成し、クロマチン構造を形成していますが、我々は、DNAに損傷が生じた際に、通常はDNAに安定に結合しているヒストンH2AXが、TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体によって損傷領域のクロマチンから放出されることを見出しました。この放出は、損傷領域でのクロマチン構造を変換し、チャックポイント蛋白質群の損傷領域での集積を促します。損傷領域でのクロマチンの変化がDNA損傷応答シグナルの活性化に寄与することを示した論文です。