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研究概要

福島原発事故後に生じた様々な事象を通じて「放射線の健康影響」に関する科学技術コミュニケーションの実態を一般人および専門家の立場から調査・解析し、得られた結果に基づいて、リスク事象を乗り越えるために必要なリスクコミュニケーション技術の開発(リスク研究会担当)を行うとともに、そのスキルを最大限に発揮し、緊急時に独立・中立的に情報を発信できる専門家ネットワーク(専門家ネットワーク設置委員会担当)の構築を図る。
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研究に至る背景

福島原発事故によって、我が国に、突発的かつ広範囲に起きる原子力関連事故に効果的に対応できる有効なリスクコミュニケーション技術と実施体制がないことが次第に明らかとなってきた。その根本的な原因は、突発的かつ広範囲なリスク事象が生じた際のリスクコミュニケーションが平常時の科学情報コミュニケーションと様々な点で異なることが充分に理解されておらず、緊急時における情報伝達に以下に掲げる三つのポイントが押さえられていないことに原因があると考えられる。
第一に情報が伝わるために必要な条件は、伝える側の知識と価値観と受ける側の知識と価値観に大きな差がないことが必須だということが理解されていないことである。伝えたい情報に関する知識レベルが高い層の間では正確な情報が伝わりやすいが知識レベルが大きく違う場合には情報は正確に伝わりにくい。しかし、我が国では、原子力および放射線がエネルギー源や医療手段として汎用されているにもかかわらず、様々な原因からそれらの教育が公教育でほとんど取り上げられなくなってしまった。この状況を抜け出すためには、原子力及び放射線に関する基礎的知識を国民に浸透させるための教育システムの充実が極めて重要である。
第二に、情報の流し手と受け手の価値観が大幅に異なると情報が正確に伝わらないばかりか、かえって互いの不信感の増強につながることが理解されていないことがあげられる。このことを回避するためには、互いが相手の価値観を認め合う信頼関係の構築が必須である。このことを実現する術は非常に漠然としているが、多様な価値観を認め互いに認めあう文化度の高い民族性を高めてゆく以外には無い。少なくとも大戦以前の我が国には、こうした質の高い民族性が息づいていた。
第三に情報を出す側が充分な専門性を備え、常に信頼できる情報を提供し続けることが重要である。そのためには、専門家が様々な要因に影響されず独立性・中立性を保ちながら情報提供活動をおこなう仕組みが整備されることが必須である。しかし、福島事故後、国の専門委員会あるいは科学者の情報提供は、ほとんど国民からの信頼を得ることができなかった。これは与えられた情報が科学的に間違っているがどうかにはほとんど左右されない。
今回の原発事故後の対応に置いて、リスクコミュニケーションで重要な三つのポイントが、いずれも不十分であったことが明らかである。

平成24年度における目標

福島原発事故後に、政府や科学者が発信した科学情報によって、国民が「リスクコミュニケーション不信」に陥った原因と経緯を詳細に解析し、突発的かつ大規模な放射線関連事故が起きた際にとるべき、(1)リスクコミュニケーション技術の開発とともに、リスク事象発生時に、そのスキルを最大限に発揮しリスクコミュニケーション活動を独立・中立的におこなうことのできる(2)(放射線安全に関する)専門家ネットワークの構築を目指す。

平成24年度には、以下の3項目に重点を置き業務を展開する。

  • (1) 福島原発事故に伴って実施された「放射線の健康影響」に関する科学情報コミュニケーションの実態を一般人及び専門家から詳細に収集し、解析する。(リスク研究会が担当。)
  • (2) 前項の活動によって得られた解析結果をもとに、突発的かつ大規模なリスク事象発生時に有効なリスクコミュニケーション技術の開発を始める。
  • (3) 突発的リスク事象発生時に、いかなる組織からも独立・中立的にリスクコミュニケーション活動ができる(放射線安全に関する)専門家ネットワークの構築の可能性および手法の検討を始める。(いわゆる日本版の国際放射線防護委員会(ICRP)あるいは電離放射線の生物学的影響に関する委員会(BEIR)の設立を提案する。)(専門家ネットワーク設置研究会が担当)

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