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福島第一原子力発電所の事故を契機として、放射線生物・医学の専門家に寄せられる社会の期待は多面的な方向に増大しました。
1)低線量(率)放射線の長期被ばくの生体影響の解明、
2)放射線感受性に対する年齢、性差、遺伝学的背景などの影響の解明、
3)生涯にわたる生物学的線量評価法の開発、
4)放射線誘導性の発癌メカニズムの解明、
5)より安全・安心な放射線治療・検査法の開発、
そして、6)正確な知識を社会に伝えるリスクコミュニケーション能力の開発、など、
この分野の専門家がライフワークとして担うべき課題が山積しています。本事業の目標は、このような課題に取り組める人材の育成です。細胞が放射線に被ばくして数秒以内に起こる損傷は、時間の経過に伴い生体内で刻々と変化し、何十年後かにガンを典型とする疾患としてあらわれることがあります。放射線による損傷と影響との因果関係を、時間経過に伴う変化を意識しながら、広範に、深く、理解し、社会に貢献できる専門家、すなわち「被ばくの瞬間から生涯」を見渡せる専門家こそが理想の人材です。これらの山積した課題に立ち向かうための「実戦力」を備えるために、これまでの知識と技術の蓄積を、広範に、深く、吸収して下さい。そして想像力と独創性を発揮し、分子レベルの研究と個体レベルの研究との垣根を感じること無く自由に行き来して欲しいと思います。本事業の目的は、研究者の育成ばかりではありません。放射線生物・医学の領域で、医療、教育、行政に携わる専門家は、社会との直接の接点をもつ人材です。研究・調査の現状を理解した上で、それを平易に正確に、社会に伝える「実戦力」を持つべきではないでしょうか。

この人材育成事業では、60名を越える講師陣が、講義や実習を通して皆さんが「実戦力」を身につけるお手伝いをします。図に示すように放射線生物・医学領域を以下の主要4分野に分割しました。受講生の皆さんに、 分野ごとの特色を捉えていただき、単一分野に偏らず、この領域の学際的教育を受けていただくためです。

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第一分野「防護と被ばく医療」:

被ばく後、数ヶ月以内にあらわれる放射線による急性障害について、その原因と対処法等を取り扱います。また放射防護の規制についての解説も扱います。「被ばく医療総合研究所」を擁する弘前大学、「災害医療総合学習センター」を発足させた福島県立医科大学、そして、東海村JCO臨界事故や福島原子力発電所事故で、被ばくした作業員に被曝治療を施した放射線医学総合研究所が担当します。

第二分野「疫学とガン治療」:

放射線の晩発性障害について、分子・臨床的な疫学研究、さらに晩発性障害の典型であるガンについての治療法を取り扱います。なお、広島・長崎の原爆や世界の原子力災害の被害と健康調査についての解説等も行ないます。原爆生存者の長期、大規模な疫学研究を行なった放射線影響研究所、分子疫学で先鞭をつけた長崎大学、日本唯一の放射線診療単科病院を擁する放射線医学総合研究所が担当します。

第三分野「個体応答研究」:

被ばく後、数ヶ月から数年以内に観察できる生体応答について、主に動物モデルを用いた研究を取り扱います。低線量(率)放射線の影響研究で世界のトップを走る環境科学技術研究所、マウスの長期被ばく影響の研究で先駆的な業績を挙げた東北大学と電力中央研究所が担当します。

第四分野「分子応答研究」:

被ばく後、数分から数時間以内に観察される細胞内の分子応答の研究を取り扱います。京都大学に加え、DNAの修復メカニズムの解明で顕著な実績がある東京工業大学、放射線による細胞老化と癌化の研究で当該分野をリードする長崎大学が担当します。

この人材育成事業の主役は、学部学生と大学院生・若手研究者です。それぞれのレベルに合わせて2つのステージを設けました。

イザナイステージ:
学部学生は、第一年次に研修会「放射線生物学へのイザナイ」に参加し、4つの分野についてガイダンス講義と実習を受けていただきます。 第二年次には、興味を抱いた分野に所属し、1)担当教官を選択、2)集中講義を履修、3)履修レポートを担当教官に提出していただきます。
また担当教官は、受講生の履修方針や進路の決定に際して、随時、助言等による支援をします。
ハグクミステージ:
大学院生・若手研究員は、第一年次に所属分野と担当教官を選択してください。この際、自らの研究分野と類似性が高い分野の選択は原則として認めません。第二年次終了までに、集中講義とインターンシップによる実験実習を2?3回受講し、履修レポートを担当教官に提出していただきます。また、各年に開催する国際シンポジウム(全分野共通)において成果を口頭、あるいはポスターにより発表する機会があります。
担当教官は、受講生の履修方針や進路の決定に際して、随時、助言等による支援をします。

 なお、参加にあたり、登録料や受講料は一切必要有りません。受講生が、本事業のイベント(研修会、集中講義、インターンシップ、国際シンポジウム等)に参加するための旅費、宿泊費等は本事業の経費より支出されます。24年度のイベントの詳細は年間スケジュールを、受講生として参加を希望される方は、参加登録をご覧下さい。