概論

Figure02s
分裂酵母の核の二重染色像(1984年、松本により撮影)
DAPI(青)がクロマチンDNAを、エチジウムブロマイド(赤)が核小体を染色

細胞が自己複製を成し遂げるためには、染色体を忠実に複製したのち、それらを均等に分配せねばなりません。これに加えて、細胞を形作る種々の物質を2つの細胞に十分な量だけ生産しなければなりません。しかし細胞を取りまく環境にも、細胞の内部にも、自己複製を妨げる“ストレス”が存在します。

放射線は染色体DNAに損傷を与える外因性ストレスです。種々の化学物質は染色体の複製を妨げたり、染色体の分配に必要な紡錘糸の形成を阻害したりします。これらの化学物質も外因性ストレスです。さらに細胞を取りまく環境に栄養源が枯渇することもストレスといえるでしょう。

細胞の内部に目を向けてみましょう。染色体DNAの一部には複製されにくい配列が存在します。これは内因性ストレスと考えることができるでしょう。有糸分裂期において総ての染色体の動原体に紡錘糸が接続することが均等分配のための必須条件です。動原体への紡錘糸の接続は同調的に起こるわけではありません。多くの動原体には紡錘糸が接続しているものの、いくつかの動原体には未接続である時期があります。この時期に姉妹染色体が解離してしまうと染色体の不均等分配がおこります。細胞は有糸分裂期に入る度にこの時期をすごさねばなりません。これは有糸分裂期に必然的に発生する内因性ストレスと考えられます。

このような外因性、内因性ストレスに対して、細胞は適切に対応して危機を乗り越えるメカニズムを有しています。我々の研究は、これらのメカニズムを分子レベルで解明することを目的としています。

過去、現在の研究内容を具体的に説明しましょう。

1.スピンドルチェックポイントのターゲット
2.スピンドルチェックポイントの解除
3.栄養源枯渇に対する適応メカニズム
4.DNA複製阻害とヒストン修飾